「アールブリュット」とは何かを考えてみる(4)

 非現実の世界を創造主として一から作り上げてしまおうとするアール・ブリュットの作家の考え方からすると、その世界では当然、自身が神となる。唯一無二の神、つまりキリスト教でのキリストやイスラム教でのアッラーのような一神教の神である。アロイーズやヴェルフリなど西洋のアール・ブリュットの人達の作品には、しばしば自身を神として崇める傾向が見られる。

 これまで、アール・ブリュットと密教を比較して考察を重ねているが、密教は一神教ではない。前回説明したように、全宇宙の創造主が大日如来であるのなら、なぜ大日如来が唯一無二の神として存在しないのか。これには密教独特の解釈がある。
 例えば、陶芸家の私が「うつわ」を作っているとする。この立場を一神教的に考えると「うつわ」にとって私は、色や形を与えて生み出しているので創造主となる。しかし密教では「うつわ」そのものが自然と沸き上がって生まれ出て来たものと考えられている。確かに見方を変えれば、私は粘土を「うつわ」へと形を変化させたに過ぎない、形あるものはいつか壊れる。「うつわ」もいずれはまた土に戻っていくのだから、創造というものは一時的であって、あってないようなものなのだ。それは私という存在そのものも同じだ。
 簡単に言ってしまえば大日如来は宇宙の創造主であり、創造されるものでもある。つまり全宇宙を構成するすべての存在となっているのだ

 アール・ブリュットの提唱者であるジャン・デュビュッフェと親交を重ね、55年にも及ぶ歳月をアロイーズ研究に情熱を注いでいるアロイーズ財団の会長ジャクリーヌ・ポレ=フォレルは、2009年に開催した「アロイーズ展」のために来日した際、文楽をとても見たがっていた。あいにくスケジュールが合わずにその願いは叶わなかったが、今になってなぜ彼女が文楽を見たがっていたのかがよく分かる。
 文楽は操り人形を動かして浄瑠璃を演じるのだが、舞台には、操り人形の他に人形遣い、物語を語る太夫、三味線が存在している。観客からは人形の他に人間の姿が丸見えなので、虚構の世界を現実の世界の中に作り上げている様子を見ることになる。
 つまり文楽は虚構の世界と現実の世界という2つの異なった次元を同時に体感させる劇場なのだ。この現象にオペラを題材とした非現実の世界を作り上げたアロイーズを当てはめると、操り人形である自分、操り人形を操作する自分、操り人形である自分が自分によって操作されている舞台を観客として俯瞰して見る自分というような構成になったのではないかとジャクリーヌさんは思い当たったのだろう。
 どの断片にも自分の存在がある。つまりアロイーズは創造主であって創造されるものでもある。密教における大日如来の考え方に当てはめると、アロイーズは自身の宇宙を構成するそのものの存在になったと言える。アール・ブリュットも際立つと宇宙が見える。ますます興味深い。



写真:2009年に滋賀県のボーダレス・アートミュージアムNO-MAで開催された「アロイーズ展」では日本家屋の中にアロイーズの12メーターにも及ぶ絵画を壁面に展示した。
 アートディレクターとして私が考案した展示方法だが、そのイメージを超え強烈なアロイーズの宇宙を感じる印象的な空間となった。(この展覧会は東京ワタリウム美術館、旭川美術館に巡回した。)

(あさひかわ新聞 2013年5月14日発行 工藤和彦コラム「アール・ブリュットな日々」より)

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