帽子おじさん宮間英次郎 弾丸ママチャリライダー

帽子おじさん宮間英次郎 − 弾丸ママチャリライダー 

 先日、旅行中のSさんから嬉しいメールが届いた。「横浜中華街で偶然にも「あの人」を発見!」というものだった。添付された写真を見ると、中華街のネオンをバックに奇抜な衣装、派手な帽子をかぶり颯爽とママチャリに乗る老人だった。一目瞭然!「あの人」とは宮間英次郎さんだった。


(あさひかわ新聞社記者 柴田氏撮影 2011年)

  私が宮間さんを訪ねたのは6年前。幸運にも、奇人研究をしている方の協力で連絡をとることが出来たのだった。小雨降る中、待ち合わせ場所に普段着で迎 えに来てくださった。宮間さんは、私が傘を持っていないのを見るとスッと傘をくれました。見ると、自転車の荷台には何本もの傘をくくり付けてあり、「傘な らいくらでも手に入る。そこらに捨ててあるから」と言う。都会ならではのリサイクルだ。宮間さんのお心遣いがとても嬉しかった。

  宮間さんは横浜市の寿町という、いわゆるドヤ街に住んでいた。この街に入ると、何か空気のどよみというか、閉塞感のようなものを感じる。日中だったた めか人影も少なく、陰気さを一層漂わしていた。一角の古いビルを登っていくと3畳ほどの部屋がいくつもあり、その一室に宮間さんはお住まいになっていた。 宮間さんは、人生の大半を都会の日雇い労働に従事し、ドヤ街を転々と移り住んでいるという。

 「さて、いくかな」というと、宮間さんはド派手な婦人服を着だした。胸に詰め物をして、ふくよかな胸を演出すると、今度はビルの屋上に向かう。そこに は、宮間さんが「帽子おじさん」と言われる由縁となった、大きな帽子がいくつも置いてあった。部屋が狭いので帽子は屋上で保管しているという。宮間さんの 帽子をかぶらせてもらうと、ずっしりと重たく首がもげそうになる。街で拾った廃品がてんこもりでくっつけられているのだから、重たくてあたりまえだ。70 歳を超えた人がこれをかぶって自転車をこいでいるということがとても信じられない。


(帽子をかぶらせてもらった私と宮間氏 2006年撮影)

  中華街に向けて自転車を走らせた。人影が多くなるに従って宮間さんに周囲の注目が集まっていくのが分かる。人々は目の前を通り過ぎていく不思議な格好のおじさんに唖然としながらも、とてもラッキーなものを見たという幸福感が漂っている。


(周囲の注目を集める宮間氏 2006年撮影)
 
 雨の中、遠く小さくなっていく宮間さんの背中は、今の社会に風穴をあけていく弾丸のように見えた。

(あさひかわ新聞 2月14日号 工藤和彦連載「アールブリュットな日々」より)
 


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